No.11 夏休みの渋谷
夏休みの渋谷
夏休みの渋谷には、地方から遊びに来ている中高生がたくさん
いつもの渋谷とはちょっと成分が違う感じがして、おしゃれもいつもより少し肩に力が入っていて、ああいまは夏休みなんだという、いつもより1.7倍くらいそわそわした空気が漂っている。
この間、
「東京の東京らしさは、東京の外から来た人たちで作られているよね」
という話をした。
東京らしさとはたぶんその「そわそわ」のかたまりのようなものなんだろうと思う。
お盆休みのあいだ、帰省した人たちが消えた渋谷はびっくりするほどいつもと様子が違うらしい。そわそわの成分が薄まるのかもしれない。
かくいう私は毎年田舎に帰る側の人間なので、その景色はまだ知らないけれど。
東京から、東京以外からきた人たちがいなくなったら、たぶんそれは東京であって東京ではない、ちょっと物足りない街になると思う。
東京には、そわそわの燃料が必要なのだ。
夏休みもあと1週間余り。
空の色が薄くなるのと同じくらいのペースで、少しずつ街の成分がいつも通りに戻っていくのを感じている。
No.10 夜に鳴くセミ
夜に鳴くセミ
深夜、寝る前に気づいたら
窓の外から蝉の声がする。
セミって夜に鳴くんだっけ?と思って調べると
暑すぎるのと街が明るいのとで昼と勘違いしてしまうらしく
熱帯夜の多い東京のセミはここ10年くらいで夜にも鳴くようになったらしい。
ただでさえ地上での寿命が短いのに、
勘違いしていると知らずに夜も命を削っているのか、それとも好きで鳴いているのかはわからない。
少し寂しい虫の声と混じって、ミンミンゼミが1匹だけ鳴いているのが聞こえる。
もうすぐ東京の夏が終わる。
No.9 ゲリラ豪雨
映画館を出たらとんでもない雨
(写真は違う雨の日)
花火大会がたくさん中止になったらしい。
でも、普通に終わる花火大会より、豪雨で中止になった花火大会の方が記憶に残りそうだし、ドラマも生まれると思う。雨はドラマを動かす。
「あの年の花火大会、ずぶ濡れになっちゃって大変だったね」
なんて何年後かに思い出す人たちもいるんだろう。
ゲリラ豪雨は、みんな雨やどりか傘を買うかしかできなくて、困った顔をして空を見てるのがなんだか人間らしくて、ちょっとおかしくて実は好き。
買った傘はさっそく無くした。あの傘はたぶん東京のどこかをしばらくめぐり続ける。いつかの雨の日に、誰かのドラマを動かすのに一役買って欲しい。
No.8 深夜のマツモトキヨシ
深夜のマツモトキヨシ
マツキヨの病的な明るさに救われる日もある。
なにをどうしても元気が湧いてこないとき、渋谷の交差点のマツキヨに行く。
ラップか呪文みたいな店内アナウンスを聞き流しながら、
二階のコスメ売り場で口紅を一本買う。
チークとかアイシャドウとかよりは、口紅がいい。
明日の朝塗るべき新しい口紅があるだけで、生きる意味がひとつできる。
そこまで言うとちょっと大げさなのだけど、
そんなわけで深夜のマツキヨのけたたましい明りは嫌いではないのでした。
No.7 水槽のフグ
水槽のフグ
東京には思ったよりたくさんフグのお店があって、
だいたいは店先に水槽がある。
毎日通るフグ屋のフグたちと目を合わすのが日課。
毎日見ていると、フグにもやる気がない日と元気な日があるのがわかっておもしろい。
だけど昨日会ったフグと今日会ったフグはたぶんちがうので、ちょっと悲しい。
美味しいご飯屋さんは絶賛開拓中だけど、
ここのフグ屋はまだ行けそうにない。
せめて美味しく食べられていてくれ、と思う。
No.5 消える東京タワー
消える東京タワー
東京タワーが見える会議室が好きだったのに
新しいビルの出現によって見えなくなってしまった。
しかしこれもまた東京。
3年後の今日はオリンピックらしい。
その頃にはどうなっているのかしら。
見えなくなるものより新しく見えるものが多いと嬉しい。