No.25 大雪の夜
大雪の夜
いつも東京が台風か大雪に見舞われると、
「これをきっかけに何組が付き合うに至るんだろう」
とふと考える。
オフィスは「帰れる」「帰れない」でなんだか落ち着かない。
歩道は徒歩帰宅を決意した人たちで溢れて、
みんな雪の中を同じ方向を向いてひたすら歩いていく。
電車もバスもタクシーも気の遠くなるような行列。
いつもと違う時間に、違う手段で、違う道で帰る人たちの群れ。
日々のルーティンが崩されるこの日のこの時間に、
何組の人たちが昨日とは違う関係性になったのだろう。
それは雪道で転んだところを助け起す手かもしれないし、
「タクシー、よかったら相乗りしませんか」の一言かもしれないし、
「今日ちゃんと帰れましたか?」のLINEかもしれない。
大雪が影響を及ぼすのはきっと交通網だけじゃないから、なんだか嫌いになれないのだった。
No.24 年の瀬の花屋
年の瀬の花屋
東京の年の瀬が好きだ。
普段は急いで通り過ぎる道を、
帰省の大きな荷物を抱えた人や
いつもよりちょっと良い肉を買う家族連れが、
気持ちゆっくりめに歩いているのを見るのがとても好き。
街の人口密度が低くなって、道で1人が占有できるスペースが広くなるのと同時に、
人の気持ちのゆとりも、花を買おうと思えるくらいにはできるよう。
花屋には正月用の花だけでなく、小さなブーケが並んでいた。
クリスマスに買う花が誰かのための花なら、
年の瀬に買う花は自分のための花だと思う。
よいお年を、とお互いに言い合って、
まだ本当はやらなきゃいけないことが残っていたり、全てを年内に折り合いつけることができていなくても
とりあえずはそう言い合ってお互いを労う街の人たちを見て、
やっぱり東京が好きだなと思った。
来年もここで生きていきます。
よいお年を。
No.23 冬の早朝、渋谷駅ホーム
冬の早朝、渋谷駅ホーム
平安時代に清少納言が枕草子で「冬はつとめて」と言っているのは、
早朝に火を起こしたばかりの火鉢を持っていそいそと移動するさまが冬の朝にふさわしいと思ったからだという。
2017年のいま、土曜の早朝から仕事に向かうために渋谷駅のホームに立っているとき、
ああ、たしかに「冬はつとめて」だなぁ、と思った。
まだ暗いうちに目を覚まし、布団に潜っていたい心を鬼にして体を起こす。仕事を始める頃には頭も少しずつ冴えてきて、冬の澄んだ空気の中を鋭い朝陽が射し込んでくる。
清少納言が衣擦れの音をさせながら火鉢を運んだ廊下と、始発のアナウンスが流れる渋谷駅のホーム。
千何百年の時間を超えて、彼女と私はきっと同じ朝陽を見ていたのだと思う。
No.22 地味イルミネーション
地味イルミネーション
イルミネーションは、わざわざ観に行くような派手なやつよりも
散歩中に偶然出会う地味なやつが好きだ。
「本当は電飾なんてつけられたくなかったんだけどね」なんて言ってちょっと照れ臭そうに立ってるように思えて、
土日にちょっとおめかししてみた部活少女とか、ふだん化粧気がないお母さんの参観日とか、そういう類の奥ゆかしさを感じる。
だから、冬の道端でひっそり光っているのを見つけたら
ちゃんと立ち止まってよく見て、綺麗だよって心の中で言ってあげることにしているのです。
そういう夜の散歩が楽しい季節になりました。
No.21 世界の果てお台場
世界の果てお台場
お台場に行くといつも世界の果てに来たみたいな気分になる。
埋め立て地のだだっ広さからは人間の匂いがしなくて、
いつかみた未来人が住む月面の人工都市は、お台場に似ていた。
夕方のお台場なんてまさにこの世の終末みたいで、あの大きな観覧車に隕石がぶつかるところをたまに想像する。お台場には世界の終わりが似合う。
そんなディストピアお台場が嫌いかというとそうではなくて、あの最果て感がむしろ気に入っているし、ぽつんぽつんと大きな建物があるところも「東京テレポート」というりんかい線の駅名もこれ以上ないくらい人工的で良い。
埋め立て地や新興住宅地みたいな、定規でまっすぐ引かれた計画的な街は、歴史が塗り重ねられた古い街にはないエモさがあるように思う。
No.19 夜の竹下通り
夜の竹下通り
クレープ屋も洋服屋も閉まったあとの竹下通りは、閉園後の遊園地みたいな感じがする。
昼間はJKと外国人観光客の醸し出す明るくてぱちぱちした空気がある場所でも、
夜になると街もなんとなく疲れているような、「ちょっと休ませてくれよ」みたいな雰囲気に変わる。
ゴミ出しするクレープ屋の横で年端もいかない読者モデル風の女の子と胡散臭い大人がひそひそ話していたり、
仕事が終わったショップ店員が一服しながら誰かの愚痴を言っていたりする横を通って帰るのは、結構気に入っている。
原宿のいいところは、いろいろちゃんとしてなくて、どこか怪しいパチモンっぽい楽しさが、だいたい2000円くらいで手に入るところ。
ちゃんとしてないもののほうが良く思えることだってあるし、そういうものの楽しさは大人になっても忘れたくない。
高いお肉を食べたりもするし、原宿で買った2000円のTシャツも着たりする大人になりたいと思う。